2004年11月下旬、小惑星に関するプロとアマチュアのメーリングリストMPMLに、 MPCのTim Spahr氏が紹介した氏の記事
http://cfa-www.harvard.edu/~tspahr/astrom.howto
は、参考になる部分が多いと思いました。リンクと翻訳してHPに載せてよいかを問い合わせて許可をいただきましたので ここに掲載したいと思います。
小惑星の発見や位置観測を想定して書かれている記事ですが、彗星の観測にも参考になると思います。 誤訳の可能性もあるので、怪しい部分は原文をあたってください。
観測者の皆さんへ：
ここMPCでは、私たちは皆、エラーに満ちた位置測定の報告をあまりに頻繁に受けます。 そこで私は、一般的な落とし穴は避けられること示し、人々がMPCに提出する報告を どのように改善するかについて、少し「ハウツーもの」を書くことに決めました。
先ずはじめに、これを読んでください：
http://cfa-www.harvard.edu/iau/info/Astrometry.html
これら２つの文書は、かなり重複しています。どうか両方を注意深く読んでください。
最も一般的な問題：
１）ホットピクセル、不良ピクセル、不良なフラット補正、内面反射、などが原因の誤検出
これ／これらは、MPCへの報告の最も一般的なミスです。 プロの観測者も今なおこのミスをします。 キーポイントは、これらの光点が直線上に並んで本物の天体を「創造」することを避けることです。 このために抜群に容易な方法は、単に、連続する画像の間で望遠鏡を微小にずらすことです。 これを行うだけで直ちに誤検出の９９％を防ぐことができるでしょう。
CSS（Catalina Sky Survey）で、私たちはこの問題に直面しましたが、 結局、各画像の撮影後に単に望遠鏡を動かすことで解決しました。 つまり、画像１は所定の位置（赤経・赤緯）を撮影、 画像２はこの位置よりも30秒角だけ北にずらして撮影、画像３はこの位置よりも30秒角だけ 南にずらして撮影、画像４はこの位置よりも30秒角だけ南と西にずらして撮影、というように。 この簡単な手続きによって、にせものの光点が、数秒角以内の誤差で直線上に並んで等速で移動することは 殆ど不可能になります！
誤検出に関する第２の問題は、使用する画像枚数が少なすぎることです。 大変小さなピクセルサイズ（0.5"/pixel程度）で且つ両方の検出とも良好な 星像である場合以外は、私は決して２枚のみの画像を発見目的には使わないでしょう。 私の意見は、３枚が最小限ですが、まだ不満です。 ３枚を超える枚数を使い、且つ、望遠鏡を微小にずらしてください。
もう１つのとてもよくある間違いは、画像の時間間隔（訳者注：１つの天体についての 最初の画像から最後の画像までの時間の幅）が短すぎることです。 各々の天体について少なくとも３０分の時間幅があればベストです。 CSSやLINEARやSpacewatchなどは全て30分を超える時間幅であることに注意してください。 LINEARでは、各天体について平均７０分前後の時間幅です。 このこと（長い時間幅）によってより安定したバイサラ軌道が得られ、 その後に観測・リンクされる可能性を高め、 更には、観測者やMPCによるリンクの誤りを防ぐことができます。
時間幅の短い観測は、しばしば誤った同定を引き起こし、より悪い場合には、偽者の天体を 作ってしまいます。
今MPCでは、極端な条件の場合を除いて、仮符号を付けるためには２０分を超える時間幅を要求しています。 この、20分を超える時間幅というのは、各々の観測日について必要であることを覚えておいてください。 付け加えると、殆ど全ての誤検出物体は時間幅が２０分や３０分を超えると直線運動を示さなくなるでしょう。 ・・・誤検出の大半はとても短い時間幅であることから生じるのです。
２）明らかに悪い位置観測
これが２番目の最も一般的な問題点であることは意外であり、そして、多分最も悩ましい問題です。 私たちはしばしば、簡単な調査で分かるような、明らかに間違った観測を受け取ります。 例えば、３個の測定の中で進行方向が変わっているような測定値とか、 もっと悪い場合には、２個は良い位置で１個は５分角ほどもずれている測定値など。 ・・・私たちは毎日このような報告を受け取ります。
観測者による誤ったリンクもこの範疇です。これもまた、殆ど毎日起こります。 例えば、観測者がNEOCPの天体の予報位置を観測し、明るい天体を見つけて測定し、 それをNEOCPの天体として報告したが、後になって、それが普通の番号登録小惑星であることが判明 した、というようなことです。 NEOCPおよびMPC Ephemeris serviceが目的の天体の速度と方向を与えているのはまさにこのためです。 いかに多くの普通の小惑星（MBA；30"/時間のスピード）が、観測者がこれはNEOCPの天体（300"/時間のスピード）だと思った場所で、 かき乱されたかを知ると驚くことでしょう。
私たちはまた、観測者が単にMPCheckerを見て、その位置に最も近い天体を見つけ、 その天体の符号を観測データに貼り付けることによる、誤ったリンクを受け取ります。 これは私に終わりの無い悲しみをもたらします。というのは、大抵の場合、 報告する各天体に対して観測者が与える一時符号を新たにつけたほうがすごく容易だからです。 この方法によれば全ての「新」天体は私たちの自動ソフトウェアによって同定され、符号が 自動的にメールされるのです。もし観測者が符号を受け取らなければ、それは通常、 その天体は新天体であることを意味します。このことはまた関係者間でのメールのやりとりの量を 減らすことになりますが、これによって明らかに私は助かります。というのは私は１日に数百通のEメールを 受け取りますので(^^)。
３）時刻の問題
何よりも先ず、これは決して問題であってはならないのですが、 MPCに送られてくる観測には、日常的に、そして多分毎日このエラーがあります。 観測するときには毎回時計を必ずチェックするように。 時刻にエラーがある画像は、アマチュアだけの問題というわけではありません。 単一のプロのサーベイには、地方時→世界時の補正のミス、コンピュータの時刻の誤差、 露光の開始と終了のタイミングの誤差、露光の中央時刻に関する混乱など、 いずれもある種の時刻の問題がありました。
はい、これらの問題は全てプロのサーベイによって、いろいろな形で、完了したのでした。 しかし、アマチュアの観測者は、これを混乱させるのに本当にひいでています。 私たちは常に時刻に誤りのある画像を訂正したり削除したりしているのです。 どうぞこの点は注意してください。このことについては言い訳はできません。 そして、私を信用してください、私は経験から話しているのです。 CSSでは、FITSヘッダーの中の開始時刻のコーディングに誤りがあったため、 全ての画像の時刻に-12秒のエラーがありました。そしてこれは、それをチェックしなかったということで、 幾分私に責任があります。
４）天体位置のくずの解
別のよくある問題は、明らかに正しい天体ではあるものの、明らかに合わない測定位置です。 これは、位置の解を求める際の、ひどい又は収束しないフィッティングなどの場合などに起こります。 もしあなたの解のRMS値が非常に小さく、比較星を３〜４個しか用いていない場合には、それは多分間違いです。 同様に、それが0.7"を上回る場合にも、多分問題があります。 これらの解によく気を配ってください！
５）明るい天体の過剰観測（位置測定の問題ではないが、注意したいこと）
かなりの数の天体は位置測定の必要が全くありません。しかし、私たちは、毎月これらの天体の 観測を文字通り何千個も受け取っています。 明るい、番号登録された小惑星は、星食、レーダー観測、ミッションなどのターゲット になっていない限り、ほんとうに位置測定の必要はありません。 従って、わざわざそれらの天体を目標にしてはいけません。あなたの撮った画像にたまたま写っていた 場合には、それらを測定してもよいし、測定すべきでしょう。 しかし、番号登録された普通のメインベルトの小惑星をターゲットにしたアマチュア機材による位置観測は殆ど確実に時間の浪費です。
同様に、番号登録されていない多くのNEOが、はっきりした理由なくアマチュアによって無条件に観測されています。 １つの良い指針は、あなたとあなたのシステムがほんとうに役立つような天体のみを観測することです。 例えば現時点の位置推算表の不確かさが僅か0.3"しかない場合には、もしあなたの位置測定の精度が 0.5"ほどしかないとすると、あなたはその天体の軌道を大きく改良することはできません。 また、活動中のプロのサーベイの空の捜索範囲と数を考えると、 あなたの大変な努力は、次の日のサーベイによって不要になることは、非常にありそうなことです。
プロのプログラムについてのメモ
ここで、アマチュアがプロのプログラムについて多少知っておくことも多分重要でしょう。 LINEARは、各写野について５枚の画像を、トータルで１時間の時間の幅を持たせて写します。 CSS、E12、およびLONEOSは、皆、各写野について４枚の画像を撮影し、その最初の画像から最後の画像まで の時間間隔は２０分から６０分の間で変わります。 SPACEWATCHとNEATは、２０分から６０分の時間の幅で、３枚の画像しか撮影しませんが、 双方とも小さなピクセル（~１秒角）を使用しています。 これらの各プログラムは皆、全ての天体を新天体として報告します。 このことは、その夜に観測された各天体は、観測者によって付けられた唯一の一時符号をもっていることを意味します。 これらの観測は我々の自動処理コードを完璧に通過し、残りの、NEOかもしれない１夜のみの観測の天体は、 更なる調査のために残されます。 MPCの多くの努力が大量データをこのように処理することに注がれるとすれば、他の観測者も 同様な方法の実施を考えてみるべきでしょう。
ティム スパール（Tim Spahr）
MPCの地球近傍天体の技術スペシャリスト
以前はカタリナ・スカイ・サーベイの観測者
追加１（2004年12月20日）
その天体が「決定的に」重要な場合以外は、どの天体でも、１夜について １個の位置だけを測って送ることはどうか止めてください。 （決定的に重要な天体で）止むを得ず１個の位置のみを送る場合には、 測定の精度に関するコメントと複数の観測が得られなかった理由を必ず添えてください。 これは、例えば、熟練した観測者からのNEOや彗星の観測の場合には、OKになるかもしれません。 しかし、メインベルトの小惑星の、単一の、孤立した位置ならば、消去される可能性がとても高いです。
私（鈴木）のコメント